

ー 本日は、日本のデジタルインフラとデータセンターの現状と今後について伺います。現在の本質的な課題は何か、また中核であるデータセンターの構造的なボトルネックはどこにあるのか。さらに、その解決に向けた現実的な戦略についてお聞かせください。
ワット ・ ビット+ シェル( 躯体)
データセンターおよびデジタルインフラの分野において、「ワットビット連携」という言葉を最近よく耳にされることと思います。私たちは、これに加えてシェル、すなわち躯体や建設物そのものも、極めて重要なプレーヤーであると考えております。
ワットビット連携官民協議会は、2025年6月に第1版の取りまとめを公表しました。その内容には、「ひも」、すなわち電線や通信線に関する議論は含まれておりますが、「箱」の部分、つまり建築物については実質的に欠落しているのが実状です。このミッシングパートをどのように補完するかという点に、私たちは大きな力を注いでおります。
これまでワットとビットという非常にシンプルな構図で整理されてきましたが、実際にはワット、ビット、そして本日お話しするシェルが相互に関係していることが重要であると考えております。
物流≫電流≫情流
その中でも、物流(モルキュール)やマテリアルに関係する領域、さらに電流すなわち電子に関係する領域、これはパワー(ワット)に関わる部分です。加えて、情報のデジタルビットやデジタルファンクションがあります。これらはそれぞれコストが二桁ずつ異なるという前提に立ち、インフラを適切に構築していくべきであるという議論になります。
そうしますと、本日の主題である「箱」は物理的な存在に関係しますので、ビットや電流と比較すると二桁から四桁程度コストが大きいことを認識したうえで設計していく必要があります。
その理由は明快です。原子核、電子、フォトンは桁違いに質量が異なり、物質は本質的に動かしにくく、多くのエネルギーを要します。したがって、デプロイ( 展開) および建設の普及には多大な手間と費用がかかります。
これを適切に活用するためには、建築部分をいかに縮減するかが重要になります。建築は地球温暖化においてエンボディッドカーボン(Scope 3 Embodied Carbon) と呼ばれ、運用部分はオペレーショナルカーボン(Scope 1&2 Oper ational Carbon) と呼ばれます。これを経営的観点から整理しますと、建設はバランスシート(BS)に反映される{ 初期} 投資領域であり、一方で運用はプロフィット・アンド・ロス(PL)に反映される日々の費用となります。
したがって、私たちはBS を重視したシステムを構築しつつ、同時にPL も低減させるような「箱」をどのように設計するかを追求していく必要があります。
これらに対し、我々MICHIBIKI がどういう解法が必要かということになれば、迅速かつ機動的にシェル(躯体)を構築できるソリューションを備えることが求められます。そのために、シェルを再利用可能な前提で設計しておくこと、さらにレゴブロックのようにモジュール化することで、高いフレキシビリティとスピードを確保・実現する設計および運用を志向することが重要になります。
データセンターは
「再利用」と「モジュール化」で、
速く・安く・柔軟に進化する

すばやい躯体(シェル)
[ 再利用 (Reuse/Recycle) ]
再利用に関して言えば、これは皆さんも、お聞きになっているかもしれないですが、外国の例では、フィンランドで製紙工場の跡地を再利用するということによって、効率・コスト・スピードのすべてを同時に解決している実例があります。既に存在している電力線のインフラと水のインフラを上手に使い、非常に早くシステムをつくれるし、安く作れるということを実現しているのです。
これを日本でも導入するということが我々の非常に重要なポイントになるし、それは日本でも実はハイレゾさんが小学校の廃校、あるいは稼働を完了した研究開発棟の跡地、それからソフトバンクさん、KDDI さんは堺のシャープの液晶工場の跡地を使って、非常に迅速に、かつ低コストでデータセンターをつくっていくというソリューションを出していらっしゃる。
このような再利用の取り組みも、明確な戦略として、ワットビット連携の中に入れていくということを考えなきゃいけないわけです。
すばやい躯体( シェル)
[ レゴブロック化 ]
迅速にシェルを構築していくもう一つの方法が、いわゆるレゴブロック化です。皆さまも子どもの頃にレゴブロックで遊ばれたご経験があると思いますが、規格化された部品を組み合わせることで、さまざまな形を簡単につくることができます。この発想を建築に応用し、あらかじめ製作されたモジュールを組み合わせるモジュラー型、いわゆるプレハブ方式で構築すれば、非常に短期間で、しかも低コストに、エンドユーザーの希望に沿った形を実現することが可能になります。
さらに、この方式が確立できれば、現在のデータセンターで課題となっている特別高圧線への依存を抑えることができます。また、プレハブ化によって現場施工作業が大幅に簡素化されるため、工事人員不足への対応にもつながります。加えて、ロボット運用を前提としたデジタルツイン、つまり三次元の完全なコピーを施工段階から取得できれば、施工と運用を一体で最適化することが可能になります。
ビジネスの観点から申し上げますと、レゴブロック型であれば増設が容易で、いわゆるスケーラビリティを確保できます。一方で、事業環境が変化した場合には縮退も可能です。増やすことも減らすこともでき、さらに再構成も柔軟に行えるという点が大きな特長です。
私どもの「みちびき」データセンターは、この考え方に基づいて設計しています。ユーザーの状況やご要望に応じて自由に形を変えられる、まさにレゴブロック型のデータセンターです。変化が激しく、不確実性の高いデジタルインフラ事業においても、経営者の皆さまが安心して投資判断できる環境を提供したいと考えています。
なぜこれが重要かと申しますと、電力システムには特別高圧と高圧の二つの区分があり、その境目は6,000 ボルトにあります。これを超える高電圧になると、整備に時間がかかり、かつ大きなコストをエンドユーザー(=事業者) が負担しなければなりません。特にビッグテック系の大規模データセンター建設では、この特別高圧電力インフラの制約が大きな課題となっており、政府も重要な課題・問題として認識しています。
一方で、6kV 以下の領域であれば、現行の電力系統に比較的余裕があり、コストも抑えられます。したがって、私たちはこの二つの領域それぞれに対するソリューションを提供する必要があります。
その解がモジュール化です。高圧、つまり比較的低電圧の領域では、小型かつ少数のモジュールによって、新技術に随時対応していく戦略が有効です。技術の変化が速い時代においては、モジュール単位で仕様を更新しながら時間軸で進化させていくことが合理的です。電力制約の少ないエリアで、小型モジュールによる柔軟な展開を図ることができます。一方で、より高電圧の領域では、新しいモジュールを順次追加することで、時間軸に沿った段階的かつ柔軟な拡張が可能になります。このように、電力条件に応じたモジュール戦略を採用することが、これからのデータセンター構築において重要であると考えています。
スマートな躯体( シェル) へ
[ IPv6 Single Stack 化 ]
もうひとつは、いま世の中そのものが大きく変わろうとしているという点です。その流れの中で、「素早いシェル」という考え方が重要になってきました。そして、この「素早い」という言葉の中には、実は「スマートである」という意味も含まれています。
私自身、インターネット創成期からこの分野に関わってきましたが、いまアメリカを中心に、設備分野にもインターネットの技術をそのまま適用していこうという動きが本格化しています。特にハイテックやビッグテックのデータセンターでは、設備の管理や制御そのものをインターネットネイティブな形で行という方向に、確実にシフトしつつある中で、できる限りインターネット技術を正しく導入していくことが重要です。これまで設備分野では、必ずしもインターネットを前提としない技術体系が使われてきました。しかし、それらはサイバーセキュリティの観点から見ると、リスクが高いことも明らかになっています。だからこそ、私たちは従来型の仕組みを見直し、セキュリティを確保しながら、インターネット技術を前提とした新しい設備システムを構築していく必要があると考えているわけです。

AI はまだ
世界のデータの10%しか使っていない。
残り90%が次の巨大市場になる
2つの事実
もう一つ重要なポイントがあります。それは、AI 産業とデータセンター産業、この二つの業界に同時に起こっている変化です。
まず一つ目ですが、いま皆さまが大きな注目を寄せているAI は、実は世界に存在するデータのうち、およそ10%程度しか活用できていないと言われています。皆さまの会社や工場、あるいは個人のノートパソコンの中には、インターネット上には出したくない、あるいは出せないデータが大量に存在しています。つまり、約90%のデータはまだAI に活用されていないのです。
言い換えれば、この90%のデータに対する新たな市場がこれから生まれる可能性があるということです。これは日本政府の公表資料にも示されていますし、さまざまな分析でも指摘されています。現在のAI 市場は、いわば全体の10%の領域に過ぎません。今後90%のデータが活用対象になれば、市場規模はさらに拡大していくことになります。そう考えますと、データセンター市場は依然として大きな成長余地を持つ分野であると言えます。
もう一つの事実として、集中と分散のサイクルがあります。インターネットやデジタル技術の歴史を振り返りますと、集中と分散は一度きりではなく、少なくとも五回程度は行き来してきました。現在、皆さまが目にされているビッグテック主導の超大型データセンターは、いわば集中型のフェーズにあります。しかし、歴史的に見れば、この流れはやがて分散型へと振れる可能性があります。
これまでの変遷を見ますと、集中と分散が交互に進むたびに、市場規模は拡大し、システムの複雑性も増してきました。現在、ラージランゲージモデル(LLM)に代表されるAI 市場は、明らかに集中型から分散型へと舵を切りつつあると私たちは見ています。そのような環境においては、小規模で機動的に動けるシステム、そして高いモジュラリティを備えた構造が非常に適合します。私たちは、モジュール型のデータセンターこそが、この新しい潮流に合致していると分析しています。
データセンターの巨大化・爆縮化は継続するのか?
最後に、私自身の非常にシンプルで率直な観測を申し上げます。よく問われるテーマとして、「データセンターの巨大化、いわゆる爆縮化は今後も続くのか」という問題があります。ここでいう爆縮化とは、エネルギー密度や熱密度がさらに高まりながら、大型化が進んでいく現象を指しています。
この問いに対して、私は「続く」と考えています。特に汎用的なパブリック領域においては、巨大化・高密度化の流れは今後も継続するでしょう。一方で、デジタルデータセンターサービスそのものは、より多様化していくと見ています。
これまでのような単純なAI サービスやクラウドサービスにとどまらず、さまざまな新しいサービスが生まれてくることが想定されますし、実際にその兆しも見えています。
さらに次のステップとして、先ほど申し上げた「分散化」の流れを考えますと、パブリックAI だけではなく、オンプレミスを含むプライベートAI、そしてロボットやエージェントAI と呼ばれるエッジAI が、大きな市場として成長していくと考えられます。
つまり、巨大化するパブリック領域と、分散・多様化していくプライベートおよびエッジ領域の両方が並行して拡大していく、そうした構造が今後のデータセンター市場を形づくっていくのではないかと見ています。
歴史はリプレイする
この流れは、実は私たちがインターネットの世界で既に経験してきたものです。ウェブサービスの進化や、コンテンツ配信の分野では、かつてコンテンツ・デリバリー・ネットワーク(CDN)と呼ばれる仕組みが登場しました。Web サーバは当初完全なP t o P に近い形で分散していましたが、ウェブサービスそのものは一度集中型へと向かいました。
しかし、集中が過度に進むと、人間の視覚や操作に求められる応答速度、すなわち極めて短いレスポンス時間に対して光の速度が遅いという理由から対応できなくなくなります。その結果、地球規模のシステムは再び分散型へと移行しました。いま、AI の世界でも同じ現象が起ころうとしていると私たちは見ています。
データセンタービジネスも、かつてコンテンツやウェブサービスがたどったのとほぼ同じ進化の軌跡を描くのではないか、というのが私たちの認識です。言い換えれば、歴史は繰り返します。これまで経験してきた集中と分散のサイクルが、生成A I とデータセンター市場においても再び起こると考えられます。
技術的に申し上げれば、Centralized なパブリッククラウド中心の構造が、Distributed edge、すなわち分散型のエッジやプライベートクラウドへとシフトしていく流れです。そこでは、フェデレーテッドラーニングやトランスファーラーニング、さらにはエージェントAI といった新しい技術が組み合わさり、分散型エッジクラウドへと進化していきます。
私たちはこれまで、プリファードネットワークスとも長く協業してきました。彼らは工場におけるAIやデジタル化に取り組んでおり、工場内ではミリ秒以下、場合によってはマイクロ秒単位の応答が求められるロボットが高速で稼働しています。その上に工場内ネットワークがあり、さらにデータを分析するデータセンターが存在するという三層構造でシステムを構築する必要がありました。
また、工場で扱われるデータは極めて重要であり、外部に出せない情報も多く含まれます。そのため、低レイテンシーで処理できるオンプレミス型、あるいは物理的に近接したデータセンターの重要性が高まります。
このような背景から、私たちは、ユーザーの視線の先やロボットのエンジンの近くに、迅速にデプロイできるデータセンターインフラを構築する必要があると考えています。それをいかに低コストで、スムーズに、かつエンドユーザーの変化に対して素早く柔軟に対応できる形で実現するかが重要です。
つまり、今ワットビット連携で議論されていない「ひも」だけでなく、「箱」をいかに賢く分散型社会に適応させ、そしてスマートにするかということが我々の仕事だし、これをマーケットに対して提供することを考えております。